Monday, August 02, 2004

歩く。 歩く、 歩く。

 乗り継ぎのバスに乗れなかった。乗れなかったというより、次のバスが一時間後だといわれ、ダウンタウンから家まで、仕方なく歩いて帰る事にした。学校が終わって夜九時過ぎ、暗くなってきて危ないかなと一瞬迷ったが、一時間何して待っていろというのだ。歩きはやむを得ない選択だった。慣れないダウンタウンの真ん中から、学期中友達と毎週通っていたバーがある通りを歩く。あのシンプルなピザでも食いながら帰ろうかと思ったら、店がやっていない。メインストリートに出る。今日は散々だな、と思いながらビーチサンダルを引き摺って歩いていた。こんなに悪い事やついていないことが重なったのも久しぶりだった。昨日までの週末は勉強メインで過ごしていたのに、ついさっき受けたテストは散々だった。勉強しにここに来てるのに、何やってんだ?と思いながら歩いていた。バスには乗れないし、こんな日に限ってビーサンだし。多分首を垂れながら歩いていたと思う。橋を渡っている途中、バークロールの後、酔っ払っていい気分になりながらみんなで友達の家まで歩いた事を思い出した。 
 
 メインストリートは、きっとどこの街でもそうだろうけど、何かと町の中心だ。この通り沿いは一応繁華街という事になっていて、メインストリートから一本道を離れれば住宅地になっている。ここのメインストリートは日本で言ったら、国道より一つ下のレベルくらいだろうか。民家や、ファーストフードショップ、ガソリンスタンドなんかがごちゃ混ぜに並んでいる。その通り沿いにてくてく歩く。時折すれ違う地元の人に緊張した。この通りの西側はゲットーで、あまりいい噂は聞かないから、自然とローカルの身なりの汚い人には身構えてしまう。
 
 しばらく歩いていると、時折珍しい建物や、見たことの無い風景を見つけて、へぇ、と目を奪われた。夏の通学路だから、何度も何度も通っているはずなのに。きっといつも乗り物に乗っていて見落としていたんだろう。こんな小さな発見が好きだ。 
 
 いつもはこの街をあまり好きではない。活気がないし、あらゆる建物が古びている。古い建物が多い、というといいイメージを持つが、この街の建物はまるで霜降りジーンズのようだ。古いけど、かっこよくはない。だから今見たって全然うれしくないというやつ。外から見ても明らかに傾いているとわかる家がある。壁のペンキにはひびが入っているし、この街に来た当初は、どうやらとんでもない街に来てしまった、と思ったものだ。貧しい地域は犯罪の温床であることが多い。
 
 家の前のベランダや道でゆったりしている人を見かける。コインランドリーは人でにぎわっていた。建物の中から黒人の女性が大声で喋っている声が聞こえてきた。崩れそうな民家が、いつもと違って少しだけよく見えた。今夜の気温は少し暖かくて、なんだか優しかった。鍵をじゃらじゃら、口笛を吹いてみたりした。一つ一つの家にストーリーがあるんだろうな、と思った。へこんだ気持ちは依然持っていたけど、歩いていることがだんだん楽しくなってきた。あの通りの奥に見えるフェンスの向こうは何があるんだろう、と思うとつい足をのばしてみたくなった。小さい頃探検に行ったときみたいなわくわくだ。
 
 ダンキンドーナツの看板が見えてて、あ、そろそろ家だ、と思ったら少し残念な気がした。もう少し歩いていてもいいなぁ、なんて思って歩いていると車の派手な音がした。そっちに目をやると、車の助手席に乗っていた女の子が手を振ってきた。僕も振りかえした。車は駐車場から出てきて、僕を追い越した。その子はまた笑顔でさらに陽気に手を振ってきた。ちょっとトンでるのかな、とも思ったけど、嬉しかった。
 メインストリートを折れて家に近づいて歩いているときは、すっかり気分がよくなっていた。何やら久しぶりの満足感だ。最近は勉強しても板につかないし、かといって音楽を聞いても、何をしてもどこか晴れない空みたいな気分だった。きっと最近の僕には、こうやって、自分の時間を取り戻す事が欠けていたのかもしれないな、と思った。

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